芳香族ポリエーテルケトン(PEEK)の構造
芳香族ポリエーテルケトンの¹HNMRスペクトルの解析を解説していく。
芳香族ポリエーテルケトンとは結晶性の熱可塑性樹脂に属するポリマーの総称であり、「スーパーエンジニアプラスチック」の中でも特に耐熱性と耐薬品性に優れる物質だ。
芳香族ポリエーテルケトンの構造は次のようになる。
ベンゼン環をエーテル基とケトン基で結合した剛直な構造である。
水素をわかりやすくあらわすとこのようになる。
ベンゼン環の上下に2個ずつある水素に加え、2個のCH₃基による6個の水素がある。
¹HNMRはHの原子核を観測する分析法である。
水素の種類を数えると、対称の水素は同じ種類の水素と考えられるので、構造から芳香族ポリエーテルケトンのもつ水素は5種類あるとわかる。
スペクトルの解析
芳香族ポリエーテルケトンの¹HNMRスペクトルは次のようになる。
主なピークは4本、その積分強度は4、4、8、6である。
それぞれのピークの帰属を考えていこう。
まず、最も大きいピークを考える。
このピークはδ1.5 ppm付近にあらわれているので、δ1~2付近にあらわれるCH₃基の¹Hスペクトルであると予想できる。
芳香族ポリエーテルケトンのCH₃基は2個あり、全部で6個の水素をもつので、積分強度が6であることからも、このピークの帰属はCH₃基であるとわかる。
では、δ7~8付近にあらわれている3本のピークは、ベンゼン環に結合するどの水素に帰属するだろうか。
ここでヒントになるのが共鳴効果だ。
ベンゼン環には共鳴効果が発生する。(脂肪族なら誘起効果を考えるとよい)
共鳴効果とは、非共有電子対を与えたり受け取ったりすることによるπ電子の移動による電荷の偏りのことである。
まず、一番左のδ7.8付近にあらわれたピークを考える。
左側(低磁場側)にあらわれるピークほど電子密度が小さく、電子雲による遮蔽が小さい。
共鳴効果により、カルボニルのπ電子はOに引っ張られてその非共有電子対になるとともにベンゼン環から電子を引っ張る。よってベンゼン環の電子密度は低下する。
こうして最も左にあらわれたピークはBの¹Hに帰属するとわかる。
水素の数は4個であり、積分強度は4である。
次に、3本の中で一番右側のδ7.0付近にあらわれたピークを考える。
3本の中で最も右にピークがあるということは、最も電子密度が大きいということだ。さっきと同様に共鳴効果を考えると、そばに電子供与性基であるO⁻がある水素が適当である。
したがって、3本の中で最も右側にあらわれたピークはそばにO⁻があるA とCの¹Hに帰属するとわかる。
同じ場所にピークがあらわれ、水素の数は全部で8個であるので、積分強度が8であることからも確認できる。
残りの、3本の真ん中のピークであるDが特に影響を受けていないベンゼン環の¹Hに帰属する。
すべてのピークの帰属をまとめると次のようになる。
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