芳香族ポリエーテルケトン(PEEK)の構造 芳香族ポリエーテルケトンの¹HNMRスペクトルの解析を解説していく。 芳香族ポリエーテルケトンとは結晶 ... 続きを見る前の記事¹HNMRスペクトルの実例解析①
パラシメン(p-Cymene)の構造
パラシメン(p-Cymene)の¹HNMRスペクトルの解析を解説していく。
まず、パラシメンの構造は次のようになる。
ベンゼン環のp-位にメチル基 (-CH₃) とイソプロピル基 (-CH(CH₃)₂) が置換した構造である。
¹HNMRはHの原子核を観測する分析法であり、構造からパラシメンのもつ水素は5種類あるとわかる。
ここで水素のカップリング反応を考える。
まず、ベンゼン環に結合した②と③のHが、ベンゼン環の上下それぞれでカップリング反応を生じ互いに影響を与える。
また、④のHと⑤のHがカップリングしており、④のHは6個の隣接水素から、⑤のHは1個の隣接水素から影響を受ける。
スペクトルの解析
では、パラシメンの¹HNMRスペクトルを見てみよう。
主なピークは5本、その積分強度は4、1、3、6である。
それぞれのピークの帰属を考えていこう。
まず、CH₃基が持つ①のHは3個であるから、信号強度が3であるδ2.2付近のピークがCH₃基に帰属する。
また、ベンゼン環に結合する②と③のHは全部で4個あるので、信号強度が4であるδ7.0付近に出ている2本のピークが当てはまる。
Hは1個の隣接水素とカップリングするので、この2本のピークはそれぞれ2本に分裂しており、その強度比は1:1である。
次に、CH基の④のHは1個なので、信号強度が1であるδ2.8付近に出ているピークがCH基に帰属する。
Hは6個の隣接水素とカップリングするので、このピークは先が7本に分裂している。その強度比は1:6:15:20:15:6:1である。
CH基の化学シフトはふつうδ1.7~2.0付近にあらわれるが、このピークはδ2.8付近にあらわれている。
同様にCH₃基の化学シフトはふつうδ0.9~1.4付近にあらわれるが、δ2.2付近にピークがあらわれた。
これはベンゼン環の磁気異方性の影響である。
ベンゼン環のπ電子が作る環状電子雲によって誘起磁場が生じ、Hは外部磁場と同じ方向に誘起磁場を受ける。これは、外部磁場が強まったのと同じ効果を受け、遮蔽が弱まったことに相当する。
したがって、化学シフトは本来より大きく低磁場側(左側)にずれている。参考:「¹HNMRスペクトルの読み取り方②」
最後に、CH₃基が2つあり、Hは全部で6個なので、信号強度が6であるδ1.4付近に出ているピークがCH₃基に帰属する。
CH基のピークに影響を与えたように、CH基のHとカップリングするので、ピークは2本に分裂し、その強度比は1:1である。
すべてのピークの帰属をまとめると次のようになる。