芳香族ポリエーテルケトン(PEEK)の構造 芳香族ポリエーテルケトンの¹HNMRスペクトルの解析を解説していく。 芳香族ポリエーテルケトンとは結晶 ... 続きを見る前の記事¹HNMRスペクトルの実例解析①
ラジカル共重合について
まずラジカルとは不対電子を持つ化学種のことであり、ラジカル重合とは、ポリマー末端の活性点がフリーラジカルで成長する連鎖重合で、工業的に広く利用される一般的な重合方法である。
そして共重合とは、2種類以上のモノマーを重合させる反応である。
例えばラジカル共重合で得られるSBR(スチレンーブタジエンゴム)は、強度が大きく硬いスチレンと、分子設計の自由度が高く柔らかいブタジエンを組み合わせることで使いやすい物性に調製できる。
このように様々な特徴のモノマーを組み合わせることで、1種類のモノマーから作るポリマーよりも実用性の高いポリマーを作ることができる。
共重合の成長反応と共重合のしやすさ
2種類のモノマーM₁、M₂がラジカル共重合する場合の成長反応は次の4つがある。
ここで は末端がM₁の高分子鎖、は末端がM₂の高分子鎖を表し、k11、k12、k21、k22は各反応式における反応速度定数を表す。
このときモノマーM₁とM₂の共重合のしやすさを示す定数(単量体反応性比)であるr₁およびr₂が
r₁ = k11/k12
r₂ = k22/k21
として反応速度定数kから求められる。
反応性比のパターンは大きく5つに分けられる。
① r₁ = r₂ =1 のとき理想共重合
k11=k12 、k11=k12となり理想共重合(得られる共重合体の組成がモノマーの仕込み組成と同じ)となる。
② r₁<1かつr₂ <1のとき交互に反応しやすい共重合
例えばスチレン(M₁)とメタクリル酸メチル(M₂)の組み合わせを考える。r₁=0.52、r₂=0.46である。
r₁ = k11/k12より、スチレンラジカルM₁・に対してスチレン(M₁)はメタクリル酸メチル(M₂)の0.52倍、すなわち約半分の反応性を持つ。
同様にr₂ = k22/k21であるから、メタクリル酸メチルラジカルM₂・に対してメタクリル酸メチル(M₂)はスチレン(M₁)の0.46倍で、こちらも約半分の反応性を持つ。
したがってモノマーとしての反応性にあまり差はないと考えられ、交互に反応しやすい共重合が起きる。
③ r₁ >1かつr₂ <1、またはr₁ <1かつr₂ >1のとき交互共重合性に乏しい
スチレン(M₁)と酢酸ビニル(M₂)の組み合わせではr₁=56、r₂=0.01である。
つまり、スチレンラジカルM₁・に対してスチレン(M₁)は酢酸ビニル(M₂)の55倍反応しやすく、酢酸ビニルラジカルM₂・に対して酢酸ビニル(M₂)はスチレン(M₁)の1/100の反応性である。
この場合、M₁・ラジカルとM₂・ラジカルのどちらのラジカルに対してもスチレンの方が酢酸ビニルより圧倒的にモノマーとしての反応性が高い。したがってスチレンが消費されるまでスチレンを多く含んだポリマーが得られることになる。
④ r₁=0かつr₂=0(k11=k12=0)のとき交互共重合
どちらのモノマーも、同じモノマー同士、つまり単独では反応せず交互共重合(得られる共重合体の組成がモノマーの仕込み組成に関わらず1:1)となる。
⑤ r₁=0またはr₂=0(k11=0またはk12=0)のとき交互共重合
少なくとも片方のモノマーは連続して共重合体に入らない。
例:スチレンと無水マレイン酸
Q-eスキーム
モノマーの反応性は共鳴安定効果(ラジカルの非局在化による安定化)と極性効果によるものであることから、1947年にAlfreyとPriceにより「Q-eスキーム」が提案された。
これは、ビニルモノマーのラジカル共重合の反応性比を、共鳴安定効果と極性効果の2つのパラメーターで表す数理モデルである。
Q-eスキームは経験的なものであり、モノマーのQ-e値が既知であれば、未知のモノマー対について反応性比を定量的に予測することができる。
Q-eスキームでは、M₁・ラジカルとM₂モノマーの反応速度定数k12について、
k12 = P₁Q₂ exp(-e₁e₂)
と仮定される。
ここでP₁はM₁・ラジカルの反応性を表すパラメーターである。
ラジカルは共役と超共役(σ結合とpまたはπ軌道の相互作用によりσ結合電子が空のpまたはπ軌道に移動、つまり非局在化)による安定化を受ける。
代表的な炭化水素のラジカルの安定性は次のようになっている。
また、
Q₂はM₂の共鳴安定化を表すパラメーター、e₁、e₂はそれぞれM₁・およびM₂の極性効果を表すパラメーターである。
k12 = P₁Q₂ exp(-e₁e₂) の関係を反応性比r₁とr₂に適用すると次のようになる。
r₁ = k11/k12 = (Q₁/Q₂) exp{-e₁(e₁-e₂)}
r₂ = k22/k21 = (Q₂/Q₁) exp{-e₂(e₂-e₁)}
Q-e値は、一般にスチレンのQ = 1.00、e = -0.80を基準とし、実験的に得られたr₁、r₂の値からそれぞれのモノマーに対するQ値・e値を算出することができる。
得られたQ-e値は、同じモノマーであれば相手モノマーの組み合わせで少し異なるもののほぼ同じ値を示し、モノマーの反応性を定性的にあらわす値となる。
Q値と反応性の関係
共重合性を予測するにはまずQ値を考える。Q値とは共鳴安定効果を表すパラメーターだ。
Q値が大きいほど共鳴安定効果は大きく、共鳴安定効果のある置換基をもつモノマーを共役モノマー(Q≥0.2)、共鳴安定効果に影響しない置換基を持つモノマーを非共役モノマー(Q<0.2)という。
ポイント
Q値が大きいとき(共役モノマー)
…モノマーのラジカルとの反応性は高い(開始反応が起こりやすい)。このとき反応で生成する成長末端のラジカルは非局在化し安定となるため、生成ラジカルのモノマーに対する反応性が低い(成長反応の選択性に優れ副反応が起きにくい)。
先程のラジカルの安定性の図を思い出してほしい。
ベンジル基をもつスチレンはスチレンラジカルの安定性が高く、Q = 1.00とQ値が大きい共役モノマーである。
ポイント
Q値が小さいとき(非共役モノマー)
…モノマーのラジカルとの反応性は低い(開始反応が起こりにくい)。このとき反応で生成する成長末端のラジカルは非局在化せず不安定となるため、生成ラジカルのモノマーに対する反応性が高い(成長反応の選択性が乏しい)。
Q値 | 大(共役モノマー) | 小(非共役モノマー) |
モノマーの反応性 | 高い | 低い |
生成ラジカルの反応性 | 低い | 高い |
モノマーの反応性と成長末端ラジカルの反応性は逆関係にある。
e値と反応性の関係
モノマーの反応性はほとんどQ値によるが、Q値が近いモノマー同士の反応性はe値によって考えられる。e値は極性効果を表すパラメーターだ。
モノマーが電子吸引性の場合はe値が正、電子供与性の場合は負となる。
ここでr₁とr₂の積を取ると、
r₁×r₂ = exp{-(e₁-e₂)²}
となり、0<r₁×r₂<1である。
両モノマーのe値の差が大きい(r₁×r₂が小さい)モノマーの組み合わせでは交互共重合が起きる。
また、Q値およびe値が近い(r₁×r₂が大きい)場合は理想共重合が起きる。
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