分子軌道 金属錯体

遷移金属錯体の結晶場理論①【d軌道の分裂・配位子場安定化エネルギー(LFSE)】

 

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結晶場理論とは

結晶場理論とは、錯体中の結合を静電的相互作用から生じるものとして、配位子の電荷が金属イオンのd軌道のエネルギーに及ぼす効果を考える理論である。

 

d軌道の分裂

d軌道の5本の軌道、$d_{z^2},d_{x^2-y^2},d_{xy},d_{yz},d_{zx}$ 軌道は配位子がない場合、同じエネルギーをもつ。

電荷をもつ配位子の正八面体型配置に対するd軌道の配向

しかし、金属イオンが配位子によって正八面体型に囲まれ、錯体が形成されると、直接配位子の方向を向いている $d_{z^2},d_{x^2-y^2}$ 軌道のエネルギーの方が $d_{xy},d_{yz},d_{zx}$ 軌道よりエネルギーが大きくなり、2組に分裂する。

このときの2組のエネルギーの分裂を結晶場分裂といい、で表す。

自由金属イオンと正八面体型錯体中の金属イオンのd軌道準位図

このとき、$d_{z^2},d_{x^2-y^2}$ 軌道をeg軌道、$d_{xy},d_{yz},d_{zx}$ 軌道をt2g軌道という。

 

ポイント

eg軌道とt2g軌道のエネルギー差を⊿₀としたとき、d軌道の平均値と比べ、eg軌道は0.6⊿₀高く、t2g軌道は0.4⊿₀低いエネルギー準位をとる。

 

正四面体型の場合、正八面体型とは逆にeg軌道の方が0.4⊿₀高く、t2g軌道が0.6⊿₀低くなる。

正八面体型錯体と正四面体型錯体中の金属イオンのd軌道準位図

⊿₀の値は配位子により、⊿₀の大きさは次の要因で大きくなる。

分光化学系列の上位にある配位子が結合するとき

CH₃⁻, CO>CN⁻>NO₂⁻>NH₃>H₂O>OH⁻>F⁻>Cl⁻>Br⁻>I⁻

②中心金属の酸化数が大きいこと

③酸化数が同じ場合は原子番号が大きいこと

 

低スピン型錯体と高スピン型錯体

eg軌道とt2g軌道に分裂した、正八面体型錯体のd軌道にd電子を詰めてみる。このとき、電子は次の2つのルールで軌道に入る。

①エネルギーの低い軌道から入る

②スピンが平行になるように入る

d軌道間のエネルギー差⊿₀が大きいとき、①に従って電子が入っていくが、⊿₀が小さいときは②の規則が優先される。

d電子が1~3個、または8個~10個のとき、不対電子の数は同じである。

d¹~d³、d⁸~d10の場合の正八面体型錯体のd電子の充填

ところがd電子が4~7個まででは d軌道の分裂⊿₀の大小によって不対電子の数が異なってくる。

 

ポイント

d軌道の分裂⊿₀が大きい状態をとる錯体を低スピン型錯体といい、d軌道の分裂⊿₀が小さいときを高スピン型錯体という。

d⁴~d⁷の場合の正八面体型錯体のd電子の充填

 

配位子場安定化エネルギー(LFSE)

錯体形成によって軌道が分裂し、エネルギーが低下することによって安定化する。

安定化されるエネルギー⊿は次の式で求められる。

ポイント

$$⊿=n_{t_{2g}}0.4⊿_{0}-n_{e_{g}}0.6⊿_{0}$$

 

例えばd電子が6個の場合(d⁶)を考えると、高スピン型・低スピン型で電子は次のように入る。

d⁶のときの正八面体型錯体のd電子の充填

安定化エネルギー⊿はそれぞれ

低スピン型:⊿=6×0.4⊿₀=2.4⊿₀

高スピン型:⊿=4×0.4⊿₀―2×0.6⊿₀=(1.6―1.2)⊿₀=0.4⊿₀

 

したがって低スピン型の方が安定化エネルギー⊿が大きく、安定な錯体であるとわかる。

 

d電子数による安定化エネルギー⊿はそれぞれ次のようになり、d電子数が低スピン型では5、高スピン型では5と10のとき以外はd軌道が分裂することで錯体の安定度が大きくなる

d電子数による低スピン型・高スピン型錯体の配位子場安定化エネルギー⊿

 

 

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